corpussanctum’s diary

趣味のブログ、雑記

青春ミステリを綴ろうとして、、、

本日は晴天なり―

 

顔を上げると青い空が広がっている。雄大な空だ。小さな疑問などどうでも良いと思えてくる。いい天気だ…。しかし、この空をもってしてもどうでも良いと思えない疑問もある。

僕―久瀬 言史(くぜ ことふみ)―は困っていた。頭の中で先程から同じ疑問がぐるぐると巡っている。少し大げさに言えばこの問題を解決しないことには、家族との再会を果せないだろう。

先程からの疑問、それは「ここは何処だろうか?」というものだ。いや、大凡の場所はわかっているのだ。問題はどうやったら、自分の知っている場所に出られるのだろうかという事だ。端的に今の状況を表すと迷子である。

 

僕は高校1年生の春休みを利用して、昨日から家族4人で叔父の家に泊まりに来ているのだ。だが、叔父は昼間はカフェで仕事をしているし、両親は仲睦まじく森林浴に出かけてしまった。姉も古い知り合いがこの当たりに住んでいるとのことで叔父のカフェで会うことになったらしい。一人になった僕はあまりにもやることがないので、近くを散歩することにした。それがそもそもの間違いだったのかもしれない。普段の僕は活発に行動するほうではない。用もないのに外に出かけようなどとは思わないのだが、普段とは違う場所に来たためか普段とは違う行動をとってみたくなったのだろう。そして、文明の利器を過信していたというべきか、スマートフォンさえあれば迷うことなどないだろうと高を括り、心の赴くまま歩を進めた結果見事に迷ってしまった。

 

先ずは状況の確認からということで、ポケットからスマートフォンを取り出してみる。画面には大きな文字で3月24日(火) 15時27分と表示されている。先程から歩きながら度々確認しているのだが、肝心の電波はというと常に圏外となっている…今時、田舎でも珍しいと思うが電波が入らないというのであれば仕方ない。夕食までにはまだ時間はある。帰り道をさがしつつ歩くしかないだろう。

 

暫く歩きながら周りを見渡してみる、草木の生い茂る自然の豊かな光景が目に映る。美しい景色は喜ばしいことだが、残念なことに人の姿は見当たらない。近くに人が集まりそうな場所などあれば良いのだが、今まで歩いてきた限りでは望み薄だろう。

来た方角も既に分からなくなってしまった以上、仕方がないのでもう少し適当に歩いてみることにした。

 

15時48分―

暫く歩いているとそこそこ広い公園を見つけた。田舎だからなのか、公園の敷地を広くとれるだけの土地があったのだろうか。まぁ、今はどうでもいい。公園とは人が集まるための場所だ。誰か居るだろう。その前にもう一度スマホを確認してみる。やはり、圏外のまま…と。

公園に足を踏み入れる。公園の中を見て回るが、当てが外れたか人の姿は見つからない。少子化の影響を考えて日本の将来を憂いてみる…いや、今は自分のことを考えるべきだな。

公園内の小さな池の周りにたどり着いたところで、ようやく人の姿を見つけ少しだけ安堵すると共に、その姿に少し違和感を覚える。

後ろ姿しか見えないが、その人は赤いベレー帽を被り薄茶色の背広を着ていた。髪は男性にしては長めで綺麗な黒のストレート。身長は座っているため正確にはわからないが、それほど高くないように見える。背はピンと伸ばしており姿勢の良さから育ちの良さが伺える。右手には筆、左手には木製のパレットが握られており、正面にはキャンパスが設置されている。誰がどう見ても絵を描いていることは明らかだ。背広が汚れないのかと、心配になるが本人は全く気にしていないのか流麗に筆を動かしている。

平日の真昼間に絵を描いているとは、画家なのだろうか?いや、世の中には平日が休みの仕事など沢山あるし、大学生なら僕と同じで春休みということも考えられるか。考えていても事態は進展しないし、問題はそこじゃないのだが取り合えずは声を掛けて道を聞いてみるとしよう。驚かせると、筆を誤って絵に支障が出ても困る。驚かせないように一度正面に回ってから声を掛けることにした。

 

「突然すみませーん。道に迷ってしまったのですが、道を教えてもらえませんか?」

声を掛けると絵描きは顔を上げるとこちらを見る。随分と端正な顔立ちをしている。

「私も地元の人間ではありませんので、お役に立てるかわかりませんが…どちらに行きたいのでしょうか?」

我ながら随分と鈍いことだが、柔らかな口調と高めの声を聴いてやっと僕はこの絵描きが女性なのだと気が付いた。

ただ、地元の人ではないということは、叔父の家に帰りつくのはもう暫く先になるかもしれない。

「猫に花に笛と書いてキャットカフェと読ませる名前のカフェに行きたいのですが、ご存じありませんか?」

「あぁ!猫花笛なら知っていますよ。ただ…口頭での説明となると中々難しいですね。」

彼女は驚いたような表情を浮かべた後、にこりと微笑んだかと思うと一転、困ったような表情を浮かべる。感情表現が豊かな人だな。

でも、地元の人でなくても知っているとは、叔父のカフェは意外と有名だったりするのだろうか。ただ、道をうまく教えてもらえる伝達方法がなければ、幾ら彼女が場所を知っていたとしても僕は帰りつくことができないのだ。

「地図でもあると良いんですけど、生憎持っていなくて…。」

考えなしに出てきたことを申し訳なく思いながら彼女に告げる。

直後にスマホで地図アプリを起動させて彼女に見せるが、圏外なこともあって現在位置がわからない。

「うーん、地図アプリで説明するのも難しそうですね…。」

彼女は困り顔でそういった後、唐突に何かを思いついたのか聞いてきた。

「この後、お時間はありますか?」

迷っているだけなので、時間はある。夕食前に帰りつけるなら特に問題はない。

「時間はありますけど、突然どうしました?」

 彼女は立上り、半歩前に近づいたかと思うと目を爛々と輝かせて言った。

「私、少し気になっていることがありまして…お話を聞いて頂けませんか?その後で良ければ猫花笛までご案内しましょう。」

にっこりと微笑んだ彼女に少し見惚れた後、少し赤くなった顔を逸らして僕は答えた。

「案内して貰えるのはとっても助かるんですけど、話を聞いてというのは?」

今一つ彼女の言いたいことを察せずにそう聞き返してみると、彼女は満面の笑みでこう告げた。

「ちょっとした謎解きを手伝ってくださいな♪」

 

…to be continued.